抹茶な風に誘われて。
「ほんっとかをるちゃんって今時珍しいくらい天然だよね! これはもう天然っていうより、天然記念物、みたいな!」

 あはは、と声を出して笑う優月ちゃん。その袖をそっと引いて「ちょっと」と止めてくれた子たちもいたけど、私はあえて気にしないふりで笑ってみせた。

「そ、そうかな? て、天然記念物だったら……貴重だから嬉しいな」

 もちろん本心じゃなかった。

 でもその答えに優月ちゃんは爆笑して、悪気があって笑ってるんじゃないんだろうってこともわかったから、私はただにこにこしていたんだ。

 けれど心の中に蘇ってきたのは、ほんの少しちくりと痛い、昔の記憶。

 みんなに嫌われたくなくて、いつも笑っていた幼い頃。

 それは今でも時々やっていたことだけど、ここまで無理やりにっていうのは久しぶりだった。

 そんな私の気持ちには全く気づいてないみたいで、優月ちゃんも他の子たちも私が笑ったから、そのまま話は流れていった。

「ほんとはさー、もっとアニメ通りの衣装にしたかったんだけど、やっぱ予算の問題もあるから、普通のおばけに耳つけるくらいになっちゃった。でもきっと似合うよーかをるちゃんなら」

 そうまとめられて、私は承諾する。

 もうその時には恥ずかしいからとか、そういう理由で断ることもできないくらい、みんなが盛り上がっていたのだ。

 私だけじゃなくて、他のおばけ役の子たちにもそれぞれ色々な衣装が用意されていたから、仕方ないと思えた。

 だけどひそかに私は決意していた。

 文化祭には、絶対葉子さんや亀元さんたち――ましてや静さんに来てもらうのはやめようって。

 ――まあ、もともと葉子さんたちはともかく、静さんのこと話してもいないのに、呼べるわけもないし、ね。

 自分で言い聞かせて、私は猫の耳と衣装をたたみ、カバンに入れる。

 文化祭の話が終わって、優月ちゃんを呼び止めようとしたけど、咲ちゃんもいない時にどうやって話せばいいかわからなくて、私はまたタイミングを逃してしまった。

 ――そうだ、先に静さんに話してみようか。

 思った時にはもう心は決まっていて、私はやっと相談相手を得られることで安心して、授業に集中しはじめたのだった。
< 136 / 360 >

この作品をシェア

pagetop