抹茶な風に誘われて。
 長身の背に阻まれて、優月ちゃんからは私が見えない。

 もちろん私に背を向けている静さんからも。

「おい、離せって」

 あわてて優月ちゃんの体を引き剥がそうとする静さんと、抵抗する優月ちゃん。

 会館からはもう出てくる人はいなかったけど、掃除のおばさんがちらりと二人を見ていく。

「やだっ、離さない! だってあたしはずっと真剣に告白してるのに、静先生は取り合ってくれないんだもん! ちゃんと答えてくれるまで、絶対離さないんだからー!」

 必死な様子でぎゅっとしがみつく姿から、目をそらしたいのにそらせなくて。

 私はただ目の前で抱き合った状態の二人を見ていた。

「とにかく――離れろ!」

 ついに力ずくで優月ちゃんを引き離した静さんが、横を向いたことでその顔が見える。

 街灯に照らされた表情は、眉をひそめ、かなり不機嫌そうなものだった。

「生徒だからと思って遠慮してやってたら……言っておくがあの時俺は止めに入ったんじゃない。知り合いにお前らを追い払うように頼まれたから渋々行っただけだ。だからいちいちお前の顔なんて覚えてもいなかったし、一ミリの興味もない! これからだって持つことはない。それに――俺はお前のような思い込み女が一番嫌いなんだよ。わかったか!」

 私がびっくりするほどはっきり言い放って、静さんはちらりと会館の時計を見ると、それきり優月ちゃんに背を向けて歩き出す。

 こっちに向かってくるのがわかったから、私はあわてて街路樹の陰に身を潜める。

 ――ま、また隠れちゃった。でも……こんな時に顔出すなんて、余計に無理だもの……!

 また優月ちゃんが泣いてしまう。

 ああ、この後、どうやって本当のことを打ち明けたらいいんだろう――そう思った私の心配をよそに、顔を上げて静さんを見た優月ちゃんは、泣いてはいなかった。
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