抹茶な風に誘われて。
 それでも頭の中に鮮やかに蘇ってきたのは昨日の場面。

 投げつけられた、ひどい言葉。

 驚いて、傷ついて――でもそれよりも忘れられないのは、あの、強い色をしたグレーの瞳。

 どうしてこんなに、はっきり覚えてるんだろう。

 どこか面白がるような目つきで私を射抜くように見つめて、答えられないようなことばかり意地悪に並べ立てて。

 あんな人……初めてだった。

 夕顔を折るのを見た時、つい重なった胸の中の面影。思い出しても辛い記憶。

 同じような人かと思った――昔、私を失望させたあの人と。それで思わず話しかけてしまった。

 でも帰り際、持ち去られた夕顔は、不思議と粗末にされているような感じじゃなかった。

 それがまた、余計に印象に残っているのかもしれない。

 あの人は、一体どんな人なんだろう。あの夕顔を、どうして折って行ったんだろう――。

 つい物思いにふけりかけ、私はあわてて自転車にまたがった。

 ただほんの一瞬言葉を交わしただけの人を、いつまでも思い出しているなんて……なんだか私、おかしい。

 目を閉じても、あの長身の着物姿が頭から消えなくて、私は頭を振って自転車を取り出した。

「さあ、バイトバイト!」

 自分を叱咤するように呟いて、さんさんと照りつけてくる太陽の下、私は思いっきりペダルをこぎ始めた。
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