抹茶な風に誘われて。
 私が少し落ち着くのを待って、ビルの一室へ案内してくれた香織さんは、冷たいお茶を出してくれる。

 座って、とすすめられたソファと、その前にはガラステーブル、そして小さな書斎机の上には電話とノート型パソコン、部屋の隅には小さな冷蔵庫。あるものといえばそれだけというシンプルな部屋だ。

「あ、あの……ありがとうございます。ここは――?」

「知り合いの事務所。ちょっと手伝い頼まれててさ、今日は店休みだから一日ここでカンヅメ」

 副業、という程度までもいかないけどね――と小さな声で呟いてから、香織さんは「それより」と私に説明を求める顔をした。

 お茶を飲んで一息ついたからなのか、さっきよりは落ち着いて話し出すことができた。

 静さんとお付き合いしていることを友達に話せていないこと、そしてその友達が静さんを好きになってしまったこと――それから、ゆうべのキスのことも。

 やっぱり思い出したら辛くはなったけど、一応最後まで話し終えてから香織さんを見る。

 意外なことに、香織さんは何かにひどく驚いたような顔をしていた。いつも斜にかまえた感じの表情をしている彼女だから、私まできょとんとしてしまった。

「あの、香織さん? 何か――?」

 問いかけた私の前で、香織さんは「あちゃー……」と額に手をやってから、長い栗色の髪をくしゃくしゃかき乱している。

 落ち着こうとしているのか、再びタバコに手を伸ばしてくわえると、やっと私と目を合わせた。

「……ごめん、かをるちゃん。それ、あたしだわ」

「――はい?」

 一瞬意味がわからずに首を傾げた私に、香織さんがふうーとタバコの煙を吐き出して、気づいたように窓を少し開ける。

 白い煙を片手で窓の外へ追いやりながら、香織さんはもう一度口を開いた。

「あたしなのよ、その子に静のこと教えたの」

「……え」

「あーごめんっ! だってさあ、まさかかをるちゃんのお友達だなんて思わなかったから、聞かれるままについさ」

 ちょっとしたイタズラ心だったのよ、と呟く香織さんの説明を聞いてから、やっと今まで気になっていた疑問が解決した。
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