抹茶な風に誘われて。
「だから、客と寝たり、ましてやキスなんてのは商売道具の一つってこと。つまり――静だって、そうやってきたの。今はともかくとして、昔の静にとってみれば、キス一つくらい、誰とでもできる単なるスキンシップの一環というかさ……全然大したことじゃないってことなの。あ、もちろんかをるちゃんとのキスは違うよ? なんだけど、ってああ、あたし何言ってんだろ。ちゃんと言いたいこと伝わってる、かな?」

「は、はい――たぶん」

 一応そう言ってはみたけれど、私が完全に理解してはいないことなんてお見通しだったのか、香織さんは苦い顔で笑った。

「つまり、あたしが言いたかったのは――気にするなってこと。それと、こんなことで動揺してちゃ、静の彼女はつとまらないよって話。そうそう、そういうことなのよ!」

 安心して、と帰り際、挨拶する私に言ってくれた香織さんは、あっという間にカラになったタバコを買うと言って、私を商店街まで送ってくれた。

 言わないけれど、さりげなく気遣ってくれる香織さんの不器用な優しさがわかって、嬉しかった。

 香織さんの話で、昨夜からの痛みは少し薄れた。

 その代わり、新しい傷が心に生まれてしまったことも事実だったけれど――。

 ――静さんは、私が誤解していると思っているのかな?

 だとしたら、その誤解を解こうとしてくれたんだろうか。

 優月ちゃんとは何でもないんだと、それを言う為に電話したり、訊ねてくれようとしたのかな。

『かをるちゃんとのキスは違うよ?』

 そう言ってくれた香織さんの言葉が蘇る。
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