抹茶な風に誘われて。
 ――本当に?

 付き合うことの意味や内容さえ、よくわからないままの私なんかといることで、本当に静さんは満足してくれているの?

 昔の静さんは、お客さんとキスしたり、それから……体の関係を持ったりすることなんて、なんでもないことだったって――そんなことを聞いてしまうと、ショックじゃないわけがない。

 私には全く未知の世界だけど、深い関係になるってことがどういうことなのかってことぐらいは、少しはわかる。

 考えてしまえば、心の奥から何か苦しい気持ちがわいてくる。

 これはまるで、あの時キスしてしまった二人を見た時の、痛みと同じもので。

 余計に静さんとどんな風に会えばいいかわからなくなってしまった。

「こんなぐちゃぐちゃした気持ちで……会うことなんてできないよ」

 会いたいのに、会いたくない。

 複雑すぎる心は自分にも理解できないものだったから、私は考えることから逃げる道を選んだ。

 ちょうどバッグの中で鳴り始めた携帯に、出ないでお店へ向かったのだった。
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