抹茶な風に誘われて。
「あら、かをるちゃんじゃない。お帰りなさい」

 商店街に入ったちょうどその時、後ろから聞こえてきた優しい声に、私は振り向いて笑顔になる。

「あ、千手堂のおばさん! こんにちは」

 お辞儀をした私に微笑んで、おばさんはちょうど出て行くお客さんを見送り、そっと手招きした。

 押していた自転車を止めて、いかにも老舗、という雰囲気たっぷりの立派な暖簾をくぐると、おばさんが店の奥から持ってきたものを差し出してくれた。

 出来立ての上生菓子――真っ白くて、丸い形に五つの線が焼き印で付けられ、真ん中に小豆がちょこんと載った可愛らしい姿に私は目を細めて、歓声をあげた。

「わあ、可愛い! これ何ですか?」

「今朝から売り出しはじめた、うちの新作。よかったら食べて行ってちょうだいな」

 甘い物が大好きな私のことをよく知ってるおばさんは、気軽な調子でそう言ってくれた。

「ありがとうございます、いただきます」

 言って、私が一口かじった後に、おばさんは笑顔でこう付け加えたのだ。

「可愛いでしょう? 夕顔っていうお菓子なの」

 ふわり、と舌でとろけるような上品な味わいよりも、おばさんの教えてくれたその名前に私は思わず驚き、喉をつまらせかけて咳き込んだ。

「あらあら、大丈夫? そんなにおいしかったかしら」

 冗談めかして微笑みながら、お茶を出してくれるおばさん。

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