抹茶な風に誘われて。
 今日の天気は快晴で、外に置いてある鉢物も嬉しそうに日差しを浴びている。

 直射日光でも前ほど熱くはなくなってきていて、吹いてきた涼しい風に秋の訪れを感じた。

 ――静さん、お仕事頑張っているのかな。

 香織さんが教えてくれた話では、行きつけの呉服屋さんに頼まれて、お店で行われるお茶席に出ているとか。

 本業である翻訳とあわせて、最近では茶道関係のお仕事も少しずつ増えているらしい。

 優月ちゃんの通い始めたクラスも、新しく引き受けたお仕事で。

 以前訊ねた時は、なぜか茶道には複雑な思いがあるようだったけど――本当のところは何も知らない。

 静さんの気持ち、ちゃんと聞かなきゃいけないのに。

 ずきん、と痛んだ胸を押さえて、手にしていたホースを巻いて元に戻す。

 避けてばかりじゃ何も前に進まないってことは自分でもわかってる。

 なのに、どうしても静さんと向き合うのが怖かった。

 俯きかけた時、お店の前を通りかかった人影に気づいて、あわてて会釈した。

「あら、かをるちゃん。今日も頑張ってるわねえ」

 笑顔で声をかけてくれたのは千手堂のおばさんで、普段と違う洋服姿をつい目で追ってしまう。

 すぐに気づいたらしく、ロングスカートを恥ずかしそうに押さえながらおばさんは笑った。

「自分でも着物じゃないとなんか照れくさいんだけど、今日同窓会だったもんだから――どう? 似合ってる?」

 たまには洋服も着たくなってね、と呟いたおばさんに、私もつられて微笑む。

「とってもお似合いですよ」と答えたら、上機嫌のままおばさんは手にしていた紙袋を差し出した。
< 150 / 360 >

この作品をシェア

pagetop