抹茶な風に誘われて。
 張り切って焼いて、驚かせるつもりで持って行ったチーズケーキを見た瞬間の静さんの顔は、今でも忘れられないのだ。

 てっきり和菓子が好きだから、私と一緒で洋菓子も好きだろうと思った私の予想が外れていたことは、ハナコさんたちがこっそり教えてくれた。

「まあ、じゃ食べてもらえなかったの?」

 おばさんに聞かれて、私はゆっくり首を横に振った。

「食べてくれたんですけど――無言で、感想とかもなかったから……すごく無理して食べてくれたんだろうなって」

 その時は、二人きりじゃなかったことをかえって救いだと感じてしまった。

 それほどの沈黙だったから、と思い返した私に、おばさんは不思議そうな顔をする。

「どうかしましたか?」

「あ、ううん。ただ、ちょっと意外っていうか――あの人、結構味にうるさいでしょう? うちの生菓子でも、気に入らないと本当に食べないのよ。だから、おいしかったんじゃないのかしらって思って」

「え……そんな、まさか」

「洋菓子が嫌いっていうならどうかわからないけど、それでも食べたっていうならよっぽど気に入ったのか、それとも――それだけかをるちゃんを想ってるからってことかもよ?」

 おばさんの言葉は考えたこともなかった可能性で、私は無意識にフォークをお皿に置いていた。

 ――すごく無理させてしまったんだ、って思ってた。

 だから悪いことしちゃったって、そればっかり……。

 静さんは、私のこと本当に――?

 考え始めると、あの時の静さんの表情ばかりが頭の中で回り出す。

 てっきり困ってしまって無口なのだと思っていたけど、少しは喜んでもらえたの……?

 もしそうだとしたら――。

 電話をとらない私は、静さんを傷つけてしまっているのだろうか。

 ポケットの中で眠ったままの携帯電話にそっと触れて、私はケーキのお皿を片付けた。
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