抹茶な風に誘われて。
 ――昨日は、電話もなかった。

 そういえば、お店が忙しくて、それになによりも自分の気持ちに混乱しすぎていて、着信履歴をきちんと見てもいなかったけど。

 もしかして、もう嫌われちゃった――?

 そう思った途端、足もとから冷えていく。

 自分の気持ちに負けて、話さえできなかった私なんて、嫌になっちゃったのかもしれない。

 ふらふらと立ち上がり、携帯電話を探した私は、衣装に着替えてからカバンに入れたままだったことを思い出した。

 非常階段から見下ろして、校門に大きく飾られた『文化祭』の看板をぼんやりと眺める。

「あっ、いたいた! かをるちゃん、いきなりいなくなっちゃうんだからびっくりしたよ~。ほら、もうスタンバイしてくれなきゃ!」

 優月ちゃんに腕を引かれるまま、私は教室へ戻った。

 みんなの努力で出来上がった『おばけ屋敷』の文字。そして飾りつけに、内装。

 他のおばけ役の子たちも忙しそうに打ち合わせしたりしているのが見える。

 とてもじゃないけど文化祭を楽しむ気持ちになんてなれない。

 でも、今は黒いカーテンを引かれて、真っ暗闇になったおばけ屋敷の片隅にいることに、まだ救われるような気がした。
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