抹茶な風に誘われて。
「朝顔って生菓子ならいくつか夏には出してるけど、うちでは夕顔は作ってなかったんだけどね。でもお得意さんが昨日、どうしても作ってみてほしいって仰るものだから――」

 ふふ、といつもの笑顔で話し始めたおばさんの隣に、いつの間にか奥から出てきたご主人――この千手堂の店主であるおじさんが出てきて、笑った。

「そうなんだよ。急きょ試作したら、満足してくださって……だから店にも出してみることにしたんだ」

 おでこの真ん中にある仏様のようなホクロが特徴的なおじさんは、ちょっと得意げに言ってショーケースに並んだ同じ白い花たちを見せてくれた。

「へえ……そうなんですか」

 返事をしながらも、また思い浮かんだのは昨日の男の人と、折られた夕顔。

 まさか、ね――。

 頭の中で否定して、私がちょうどおばさんの入れてくれたお茶を飲もうとした、その時だった。

「ういーっす、おばちゃーん! こんちはー!」

 いきなりの大声がして驚いて振り返ると、そこにいたのは大学生くらいの男の人。

 カラフルなTシャツに、金に近い茶髪をしてて、とてもじゃないけど和菓子屋には縁のなさそうな外見の人だ。

 でも私の戸惑いをよそに、その人は慣れた様子で暖簾をかきわけ、入ってきた。

「あら亀元くん。今日はいつもと雰囲気が違うじゃない」

 こちらも慣れた感じで挨拶をするおばさんに、亀元くん、と呼ばれた人は歯を見せて二カッと笑った。

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