抹茶な風に誘われて。
「かをる――来い」

 短く、それでいて拒否なんてできないぐらいに強い意志のこもった言葉。

 おそるおそる顔を上げたら、みんなが信じられないような顔で、私を見ていた。

 答えないでいる私に眉を寄せて、静さんはもう一度手を差し伸べる。

「言っておくが、俺は結構気が短いんだ。これでも言うことを聞かないようなら、抱き上げてでも連れて行く」

 驚く私を、射抜くように見つめる瞳。

 その深い色にははっきりと怒りが表れていて――私はゆっくりと静さんの手に触れた。

 途端、ぐっと引っ張られて、連れて行かれる私。

 通り過ぎざまに、唖然とした咲ちゃんの目と、見開いたまま動かない優月ちゃんの目とに自分が映っているのがわかったけれど、何も言えなかった。

「静先生――」

 小さく、最後に呼んだ優月ちゃんの声に、一度だけ静さんが足を止める。

 長めの前髪をさらりと流して、涼しげな微笑を浮かべてみせた。

「ああ、そういえば――別の仕事が入ったから、市民会館のクラスは他の講師に引き継いだ。新しい講師に、よろしく言ってくれ」

 それだけ言うと、さっさと私を引っ張って、静さんは教室を出て行く。

 真っ白な顔で優月ちゃんが唇を噛みしめているのが、静さんが扉を閉める最後の一瞬に見えたのだった。

< 160 / 360 >

この作品をシェア

pagetop