抹茶な風に誘われて。
「あっ、で、でも……文化祭っ! あの、私、学校に戻らなきゃ――」

「どうせお前の当番は昼までだろう。この後は各自のフリー行動だと聞いたぞ」

「えっ、そ、それはそうですけど――ってそんなこと、どうして知ってるんですか?」

「それは受付で聞いたからに決まってる。ただし俺じゃなく、駄目元のヤツが、だが」

 驚くばかりの私にふっと笑って、静さんは運転しながらちらりと私を見やる。

 軽く睨むような瞳を向けられて、自分の顔がまた赤くなるのがわかった。

「亀元さんまで文化祭に来てくれたんですね……」

「ついでに言うと、あいつだけじゃない。香織もだ。何やら責任を感じたとかで、色々騒いで俺を担ぎ上げやがった。面白がってるのはわかってたから、先に追い返したよ」

 ――おばけ屋敷の前でいつもの賑やかな会話を繰り広げたんだろうか。

 静さんがどんな顔で入ってきてくれたのかを考えたら、つい吹き出しそうになるのをあわてて堪える。

「別に入るつもりじゃなかったんだ。ただ呼び出して、話ができたらと――そしたら変な男が先に入ったって聞いたから」

 私の名前を出して訊ねた人が直前にもいたと、受付の子が言ったのだ。そう教えてくれる静さんの言葉で、また背筋にぞくりと寒気が走る。

 そして同時に思い出した――さっきの人が、時々お花を買いに来る、お客さんだったということを。

 ただいつも無口で、ふらりとやってきてはその時によく出回っているような花を適当に買っていく男の人。

 特別に会話を交わしたこともなく、始終俯いていたから全然印象に残っていなかったのだ。

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