抹茶な風に誘われて。
「もしかしたら、そう思ったら中に入っていた。お前、あいつに何もされなかっただろうな?」

 急に思い立ったみたいに訊ねたから、私が一瞬固まったのを見て、静さんが怖い顔をする。

「……何かされたのか?」

「いっ、いえ、無理やり迫ってこようとはされましたけど、静さんが助けてくれたから……大丈夫、でした」

 答えながら、また震えそうになる手を必死で握りしめる。

 膝の上で気づかれていないかと思ったら、信号で止まった瞬間、静さんが片手を伸ばして、私の手をそっと握ったのだ。

「よかった――そうじゃなかったら、脅しだけじゃすまないところだった」

 最後は呟きになった言葉に首を傾げると、静さんが「何でもない」と微笑む。

 優しい微笑がいたずらっぽい光を帯びて――そっと静さんが耳元に囁いた。

「俺もまだ手を出せていないのに、他の野郎に触れさせるつもりなんて毛頭ないからな」

「――え?」

 一瞬意味がわからなくて、つい問い返す。

 静さんはため息を吐き出してから、いつものように笑った。



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