抹茶な風に誘われて。
 一度だけでなく、二度、三度――何度も繰り返されるキスは、段々激しくなって。

 今までされたことがないくらいに、体を引き寄せられて、幾度も続いた。

「せ、静さ……く、くるし――」

「だめだ」

 まだ許さない、とキスの合間に囁かれて、私はただされるがまま。

 静さんの息が荒くて、自分の心臓も高鳴っていて、何も考えられなくなっていく。

「聞かないのか?」

「な、何……」

「俺の油断であの女にキスされたこと、怒っていたんじゃないのか」

 そんな質問を、重なっては離れる唇からもらされても、私の頭はもう働かなかった。

 首をただ、横に振る。

 その動作でわかってほしかったけれど、説明を要求する静さんは、無言でいることを許してくれなくて。

「じゃあどうして電話に出なかった? 言ってみろ。この俺を無視し続けた代償は大きいぞ。納得が行くぐらいの理由を言わないなら、本気で怒る」

 グレーの瞳に閃いた色は怖いくらいに真剣で、なのにそれと同じくらいなぜか弱くも見えて――静さんが急に動きを止めた。

 すごく年上のはずなのに、いつもは余裕たっぷりな態度を崩さない静さんが、突然可愛らしく見えてしまったから。

 手を伸ばした私に、静さんがびくりと肩を震わせる。

「ごめん、なさい……私、混乱して」

 気づけば、静さんの頬に触れていた。

 いつも見上げるだけの存在をとても近く感じて、なぜかそうしたくなったのだ。

「静さんとのこと、友達に話せなくて――自分が悪いからなのに、あんな風に他の子と……その、キス、したりする静さんを見るのが辛くて。こんなぐちゃぐちゃな気持ち初めてで、混乱してしまって……」

「かをる……」

 名前を呼ばれて、余計に恥ずかしくなって目をそらす。

 頬に触れていた手も離そうとしたけれど、静さんの手が引き止めた。
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