抹茶な風に誘われて。
「ああ、今日はオフなんすよ。それより昨日のアレ、おいしかったー激ウマ!」

 ガラスケースに手をついて、感動したような大きな目で言う。

 するとカウンターの中にいたおじさんが、嬉しそうに彼のほうを向いたのだ。

「そうかい、それはよかった。ちょうどほら、新作で売り出すことにしたんだよ」

 言って、おじさんが手で示して見せたのは――さっき話してくれた、夕顔。

「もうさー抹茶の渋みにほどよい甘みが合うのなんのって。なんで今までこんなうまいの作ってくれなかったんすかー!」

「いやあ、相変わらず亀元くんは褒めるのが上手だね。おじさん、張り切っちゃうなあ」

 ハイテンションで肩を叩かれ、嬉しそうに笑うおじさん。

 おばさんも隣でニコニコと見守っていて――この話の流れは、やっぱりこの人がさっき言ってた常連さんってこと? 

 予想外すぎる人物像に私はただ瞳を見開くばかり。

 そんな私に気づいたのか、亀元さんが振り向いた。

 目が合うや否や、そのままのテンションで近づいてくる。

「あれーっ、もしかしておじさんの娘とか? おじさんとこ、息子二人じゃなかったっけ? 超可愛いんだけど! 君彼氏いるの? ねえねえ、俺立候補していい? いいよね?」

 手まで握ってそう間近で見つめられ、私はあっけにとられたまま固まった。

「えっ、えっと、あの――」

 さりげなく手を外しながらも、何て言えばいいのかわからなくて、おばさんたちに目線で助けを求める。

 気づいたおばさんが苦笑いしながら何か言おうとしてくれた、その一瞬前に、暖簾の方を向いたおじさんが言ったのだ。
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