抹茶な風に誘われて。
「友達のお家に呼ばれた時、夕食をご馳走になったことがあったんですけど――施設の賑やかさとはまた違う、温かな団欒というか……家族の温もりっていうものを、初めて知りました。その子のお母さんはとってもお料理が上手で、台所に立っている背中が優しくて、思ったんです。自分も大きくなったら、こんな風に温かい食事を用意してあげられるお嫁さんになりたいって」

 だから、と言いかけたかをるの顔が、何か思いついたのか赤くなっていく。

 味噌汁を飲んでいた動作を止めて、「じゃあ今すぐ夢を叶えてやろうか?」と冗談まじりに問いかけたら、止めようもないくらいにリンゴ色に染まった。

「ふうん、お嫁さんねえ――なら、急いで式場を予約しないとな。お前なら白無垢か、それともドレスが着たいのか?」

 笑った俺をうらめしそうに見て、それでもほころばせた顔は明るいものだったから、俺は喉元まで上がってきていた言葉をそのまま胸におさめることにした。

 こうして笑えるかをるだから、俺が横から変な手出しをするべきではないのかもしれない。

 そう思ったから、黙って食事を続けた。

 敵を射るならまずは馬から――そんな言葉を思い出したから、という本音もあったのだが。

 とりあえず状況を知ることから始めよう、確かめ次第、どんな風に手を打つべきか。

 かなり物騒な考えに及んでいることなど露知らずな笑顔に悟られぬよう、俺は何食わぬ顔でもずくを飲み込んだ。

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