抹茶な風に誘われて。
 かをるのいじめが始まってから一週間、つまり俺が事態を把握してから三日目の晩。

 既に俺の手元には大まかな資料は揃っていた。

 主犯が新田優月であることはもちろん、その取り巻きはおろか、いまやクラス全体がかをるを無視しているらしいこと。

 理由は言うまでもなく、俺とのことを黙っていたせい。

 かをるの性格上、おそらく言い訳も何もしていないのだろう。もともとあの天然具合じゃ、ひそかな敵も作っていたに違いない、と俺はため息をつく。

 それにプラスして、優月がかなりのところを脚色してみんなに話しているせいで、完全な悪者になっているのだと、情報を持ってきたハナコが嘆いていた。

「ねーえ、静ちゃん。これでどうするつもり? まさかまた乗り込んでって、俺のかをるをいじめるな! なんて言えないでしょう?」

「当然だろうが。第一そんなストレートなやり方、俺の趣味には合わん」

 手土産の団子を頬張りながら即答すると、おかわりまで図々しく要求した二杯目の濃茶を飲みながら、ハナコが唸る。

「でも一番堪えてるのは、親友の咲って子にまで誤解されちゃったことらしいのよねえ。今までいっつもかばってくれてきた優しい子らしいんだけど、それが今度はあの優月とやらに引っ張り込まれて、いじめに加担まではしてなくても、話しかけてこなくなっちゃったんだって。それはさすがにショックよね、かをるちゃんも」

 言いながら自分で頷いて、訴えかけるような目を向けてくるハナコ。

 頬に当てた手の小指がきっちり立っているのを見ると未だに背筋に悪寒が走るが、今はそんなことを言っている場合ではない。

「それはわかるが――それにしてもどこからこんなに調べてくるんだ。お前には探偵の知り合いでもいるのか」

「さあ、それはどうでしょ。うふ、でも咲って子の話はヒカルくんのお手柄よ。それとなく花屋のおばちゃんに聞いたんだってさ。みんなかをるちゃんが心配でしょうがないのよ~早くなんとかしてあげてよ、静ちゃん」

 今日はこのまま店に出勤するというハナコのごてごてしたドレスをちらりと見ながら、俺は唇を引き上げる。
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