抹茶な風に誘われて。
 ――さて、どういたぶってやろうか。

 つくづく自分は肉食獣的な思考だなと実感しつつ、わきあがってくる本能には逆らえなかった。

 ガキのすることだと多めに見てやっていたら、いたずらが過ぎる。

 保健所に連れて行ってやらなきゃわからんみたいだからな――と、もうはっきり顔も覚えていない女を脳裏に描きながら、俺は笑った。

「ハナコ、今夜駄目元の店に寄れるか。少し頼みたいことがある、そう伝えてくれ」

「あらっ、何の企み? あたしにも教えてちょうだいよ。そういうの、大好きなの!」

 悪趣味な発言と共に目を輝かせたハナコを鼻で笑い、立ち上がる。

 ハナコの手から車の鍵をとりあげると、あわてた顔で追いかけてきた。

「静ちゃんも一緒に行くの? そしたら自分で伝えれば――」

「馬鹿かお前は。俺が行くなら伝言なんか頼むか」

「じゃあどこに?」

「途中で降ろせ。場所はその時言う」

 短い指示にわくわくした顔で頷いて、ハナコが俺の腕に自分の太い腕を絡ませようとするのを振り払って、俺は着物を脱ぎ始めた。

「きゃっ、目の前で着替えなんてして、やだわあっ。って、静ちゃん、それ――昔の?」

 いやん、久しぶりに見られた、なんてほざくオカマ野郎など眼中にはない。

 袖を通したスーツを翻して、俺は車に乗り込んだのだった。
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