抹茶な風に誘われて。
 運転席をハナコに譲り、車から降りた。

 道すがら連絡しておいた面会人からの指図で、待ち合わせ場所には一台のリムジン。

 歓楽街の片隅、ネオンサインの合間に宿る闇を楽しむかのように、ひっそりと停まっていたそれに無言で乗り込むと、運転手もそのまま車を発進させた。

 主な情報は駄目元とハナコに任せるとして、これから俺が探ろうとしているのは、もう一つの方――念のため、というやつだ。

 だが、やるなら逃げ道の一つも残さぬよう、徹底的に。それが俺のやり方だから――。

 すうっとスピードを落とし、停まった車のドアを開け、頭を下げてくれる屈強な男のそばを通り過ぎ、案内のままに高層ビルの最上階へと進む。

 いくつもある所有の建物のうち、今日はここに滞在しているらしい。

 それを知られないためにこうして、直前まで居場所を知らせないことは熟知していた。

 直接会うのはもうかれこれ、三年ぶりではあったが。

「久しぶりね、静」

 通された部屋で待っていた俺を、ハスキーな声が呼んだ。

 小柄な背をぴんと伸ばし、抜群のスタイルを黒のドレスに包んで歩いてくる相手に、俺は立ち上がって礼をする。

 昔のやり方に習って、まるで貴婦人と接するかのように、片手を取って口づけてやることも忘れなかった。

「ふふん、あたしの好みを忘れていないところ――さすがね。こうして二人で会うなんて、あんたが夜の世界を去って以来かしら」

「いえ。正確には店を辞めてから、かと。プロデュースの方に回ってからも少し歌舞伎町にはいたので」

 銀色のシガレットケースから一本を取り出して、彼女が口元へ持っていくタイミングに合わせてライターの火を近づける。

 我ながら寂れてもいない動作に内心苦笑するが、それすらも彼女にはお見通しであるようだった。
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