抹茶な風に誘われて。
「あいかわらず可愛くないわね。罰として一杯やりなさい。いいでしょ? もう雇用主とホストの関係じゃないんだから」

 悔しそうに挑戦してくる五月のグラスを受け取って、俺はわざと彼女が好む微笑を浮かべて、ワインを飲み干す。

 グレーの瞳に似合っていることは自覚済みの同色のスーツ。

 わざわざ昔の商売道具である衣装を着てきたのは、せめてもの恩返しのつもりだった。

「ふん。ほんっとに可愛くない飲みっぷりだこと。ほら、さっさと用件言いなさいよ」

 俺の嫌いなカマンベールチーズを口にほうりこんでおいて笑う――そのわかりやすい嫌がらせの仕方は逆に可愛らしくて、俺は仕方なくもう一杯を飲み干すはめになった。

 高層ビルから見下ろす夜景は、陳腐な言い方をすれば宝石箱のようだった。

 その中にきらめく光が全て綺麗なものでないとしても、夜に蠢くたくさんの汚いモノを飲み込んで、輝く。

 強さとたくましさ、それはまさにこの目の前の女に似ている。

「情報、ですって? しかもそんなお堅い奴らの裏話なんて、一体誰のために調べるのよ?」

「……五月さんが知る必要もない話。そう答えたって納得してくれないだろうな」

 ソファに背をもたれさせて、微笑だけを返す。

 銀色の髪をくしゃりと握って、五月は唇を引き結んだ。

「――女ね。あんたをそこまでさせる相手だってわけ。道理で、昔と目が違うって思ったのよ」

 ワインを味わう間もなく飲み込んで、明らかにその味のせいではない、苦そうな顔をする。

 思わず声を出して笑ったら、五月は一層悔しそうな瞳で睨んできた。

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