抹茶な風に誘われて。
「幸せそうな顔して笑っちゃってまあ……ムカつくったらありゃしないわ」

 今でも駄目元あたりなら一秒でひれふすこと間違いなしのカリスマを持ち合わせておいて、少女のような表情を見せる五月。

 歌舞伎町で商売をしていく上では彼女の手からは逃れられないとさえ恐れられるほどの、女王。

 少なくとも自分が尊敬する数少ない人物の一人である夜の住人は、盛大なため息を吐き出して、振り返った。

「いいわよ、調べてやっても。まあ、店だけじゃなく個人的にもあんたには色々儲けさせてもらったし――」

 ただし、と続けられて眉を寄せると、わざと夜景を背景にするように立ちはだかった五月が俺に向き直る。

 黒いドレスの裾が開いて、年齢には似合わぬ滑らかな太ももが覗いた。

「キスしてよ――静」

 言うなり、棒立ちの俺の首元に両手を回す。

 無表情でただ見下ろすと、唇が触れないぎりぎりのところで止まった五月が俺を見上げた。

「これだけの情報料にしちゃ、安いもんでしょう? あたし、この唇に触れたくてうずうずしてたの。さあ、早く……」


 押し付けられた豊かな胸元から、ムスクの香りが立ち上ってくる。

 冗談にしては本気めいた瞳。切なげにさえ見えた色を無言で見つめていた俺は、ふっと笑った。

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