抹茶な風に誘われて。
「――じゃあ、今回の話はなかったということで」

 あっさりと五月の腕から逃れて、片手をあげてやる。

 テーブルに置かれたままだったシガレットケースから取り出したタバコに自分で火をつけると、悔しくてたまらないように身をよじって、五月が近づいてきた。

「わかったわよ、やっぱりあんたってつくづく――あたしの思い通りにならない男ね。ま、そこがまたたまらないんだけど」

「お褒め頂き、光栄ですよ。女王様」

 俺の指先から奪い取ったタバコを吸う五月に、嫌味たっぷりにお辞儀をする。

 注がれたワインを飲んで、細めてみせた瞳を見上げて、五月はふん、とそっぽを向いた。

「こういう時だけ敬語使うんだから……まあいいわ。いくらなんでもただ働きってことはないでしょうね? 情報をやったら、デートぐらいしなさいよ」

「抹茶でよければ、いくらでもご馳走するけど」

「あたしが苦いの嫌いだって知ってるくせにまた! まったく、こんな可愛げのない男にどうしてああも客がついたのかしら」

 ぶつぶつと文句を言う声を肴に、ワインを味わう。

 そう言いながら嬉しそうな顔をしているあんたのような女が、世の中には多いから――そう俺が言ってやる前に、五月が同じことを言って笑った。
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