抹茶な風に誘われて。

Ep.11 静―反撃

 五月から電話があったのは、その翌日のことだった。

 相変わらず広い情報網に感心しつつ、心にもないおべっかを言い、通話を終えた次の瞬間。

 またすぐに入った着信に、俺は表示された名前を見ずに出た。

 これから頼まれていた茶席へ向かうため、地下鉄の入り口に降りていこうとしていたからだった。

『――もしもし、静さん?』

 耳元に響いた頼りなげな声で、思わず足を止める。

「かをるか? どうした、こんな時間に」

 腕時計はしていないが、ちょうど見えた駅前広場の時計台の針は午前十一時を差している。

 当然ながら、学生はまだ授業の真っ只中にいるはずで――瞬時におかしいとわかった。

「今、どこだ? 学校は――」

 訊ねかけた俺の言葉で正気に戻ったかのように、かをるはあわてて『ごっ、ごめんなさい。いいんです!』と電話を切ろうとする。

 待て、と短く出した指示に、戸惑いながらも従ったかをるに居場所を訊ねる。

 長い沈黙の後、初めて出会った河原にいる、と白状した。

 ためらいもなく、予定とは反対側のホームへ降り、かをるの元へ向かう。

 そんな自分に苦笑は浮かぶものの、心は正直だった。

 たどり着いた先の河原――広い河川敷公園にかをるはいた。

 午後には学校帰りの子供たちや学生が遊びに来るこの場所も、今の時間にはがらんとしたものだ。

 ブランコに腰掛けた背中はいつにも増して華奢で、どこか痛々しいほどの寂しさを感じさせる。

 そろそろ限界か、と冷静に考えた後、俺はゆっくりその肩に手をかけた。
< 187 / 360 >

この作品をシェア

pagetop