抹茶な風に誘われて。
 新田優月が金曜の夜、遅くまで出歩いていることは調べがついていた。

 中学の頃の旧友――悪友と呼ぶべきか――たちと繁華街をうろつき、朝までカラオケ店にいることもよくある。

 ハナコがくれた資料に記された情報をもとに、よく立ち寄るゲームセンターにまず罠をしかけた。

 読みどおり優月が現れたと駄目元から連絡が入ったのは、夜の十時過ぎ。

 駄目元に関しては問題ないが、本来なら稼ぎ頭の一人である二番手ホストを借りるにあたって少々手こずったものの、五月がどうにか手を回してくれたらしい。

 連絡係の駄目元が見張る中、女同士三人連れの優月たちに近づかせた。

「今日は見るからにって格好させてないからさー、怪しんでないよ。うん、大学生っての信じてる。とりあえず普通にカラオケ向かったよー」

 実況中継する声は楽しんでいることを隠しもしていなかったが、とりあえず制することもなく、尾行を指示した。

 既にカラオケ店で香織が待ち受けていることなど知りもしない駄目元に、自分のおかげで計画がうまくいっているのだと思わせてやった分、俺は優しいのだ。

「二時間コースで入ってったわよ。なんとか隣の部屋とれたから、あたしもスタンバイしとく。っていうかさー、こんなことして本当にいいわけ? 一応相手未成年でしょーが」

 タバコの煙を吸い込む音を受話器越しにさせながら、香織が訊ねる。

 こういうところは人がいい香織には、さすがに気が引けるらしい。

「別に本気で襲わせるワケじゃない。高い鼻をぽっきり折ってやれればそれでいいんだ」

「脅しってことね。はあーまったくあの子も、ひどい男にケンカ売ったもんね。じゃ、一応指示通りやるわよ」

 二時間のカラオケコースも中盤に差し掛かった頃、店員を装って飲み物を運んだ香織から、もう一つの携帯を打ち合わせ通り二番手ホストのジャケットにしのばせることに成功したと連絡が入った。

 時間ぴったりであることを腕時計で確かめ、俺は店の階段を上った。
< 193 / 360 >

この作品をシェア

pagetop