抹茶な風に誘われて。
「たっ、助けてくださいっ! こ、この男たちが急にあたしを――先生っ!」

 必死で起き上がり、俺のもとへ駆け寄る優月。

 この状況にまた勘違いしたのだろう、救われたような目で俺を見上げる。

 ――残念だったな、子猫ちゃん。俺を同類と勘違いしてもらっちゃ困るんだ。

 頭の中で呟いて冷たい瞳を向けた俺に、優月はただ混乱した顔をした。

「これでよかったっすよね? 一条さん。俺、結構演技力あるでしょー?」

 駄目元が働くホストクラブ・ムーンリバーのナンバーツーを誇る男が、自然に下ろした茶髪をかきあげ、笑う。

 明らかに軽薄そうな笑顔に頷いて、懐から万札を取り出す。

 無言でジャケットの胸ポケットに三枚差し込んでやったら、男たちから歓声がわいた。

「チップ代わりに取っておけ。また野良猫が悪戯を働いた時には、仕置きを頼むかもしらんからな」

 タバコと酒と、その他諸々の夜の匂いが着物につくのが嫌で、着てきたスーツ。

 昔の仕事着に袖を通しただけで、がらりと印象が変わったらしく、優月は青い顔で俺を見上げた。

 軽い調子で会釈して、口笛まじりに部屋を出て行く三人組。

 二人きりになってから、固まっていた優月の唇がようやく動いた。

「う、嘘……まさか、先生が……?」

「その先生というのはやめろ。俺は今も昔も、お前の先生になった覚えはない」

 眉を寄せて言い放ったら、信じられない、といった顔で首を左右に振る優月。

 派手な服装や化粧に似合わぬ幼い動作に、あくまでもガキかとため息をついた。

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