抹茶な風に誘われて。

Ep.12 静―思惑

 週明けの月曜日、学校から帰宅してすぐの足で、かをるが勇んで訪ねてきた。

 白い頬を薄く染めて、きらきらした瞳で見上げながら開口一番放たれた言葉は、「聞いてください、静さん!」だった。

 庭木に水をやりながら視線だけ向けると、本当に久々の、心からの笑顔を浮かべている。

「優月ちゃんとみんながわかってくれたんです! 無視したりしてごめんねって今朝――!」

 感極まっているのか、すぐには出てこない言葉の続きを根気よく待っていた俺の手を握って、かをるは口を開いた。

「なんか、優月ちゃん誤解してたみたいで……私のこと、悪く思ってたって。でも違ったことがわかったから、許してほしいってみんなの前で謝ってくれて、そしたらみんなも」

 次々に誤解が解けていったのだと、嬉しそうに語る少女。

 どこをどうポジティブに捉えればそこまで簡単に納得するのかわからないが、俺が予想したよりも遥かに平和的解決で優月は手を打ったようだった。

 期限と決めた月曜日きっかりに、しかも堂々と謝るという図太さには逆に感心してしまう。

 笑いをかみ殺す俺に気づくわけもないかをるは、自分のことのように辛そうな顔をして首を振った。

「失恋したばっかりで、やっと新しい恋を見つけたって思ったのに、その相手が友達の付き合っている人だったら――しかも故意に隠して、影で笑ってるって感じてしまったら、やっぱり悲しいですよね。もしそれが私でも、きっと普通の判断なんてできなくなっちゃう……それで元凶の私と話したりしたくなかったって、何度も謝ってくれました」

「――で、許してやることにしたのか」

 訊ねた俺が驚くぐらいに目を丸くして、かをるは両手を振って否定する。

「許す、だなんてそんな――もともと私がきちんと言えなかったから誤解を生んだんですもの。わかってもらえただけで、十分です」

「変わらず、付き合うつもりなのか?」

 ホースの水を止めて、あきれた声で訊ねても、きょとんとした瞳が返ってくるばかり。

「もちろんです」と微笑んだかをるにかける言葉は、さすがに持ち合わせていなかった。
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