抹茶な風に誘われて。
 有無を言わせずハナコから借りた車で、到着したのは藤棚高校前駅、ロータリー。

 まだ授業時間中であるはずの午後一時、かをるはセーラー服のままベンチに座って待っていた。

 俺が来たことにも気づかないらしく、その顔に浮かぶのはただうつろな表情。

 一瞬迷った後、クラクションを軽く鳴らした。

「静、さん――」

 やっと顔を上げたかをるに手招きをし、車に乗り込ませる。

 来る途中で買った清涼飲料水のボトルを無造作に渡して、飲むように言った。

 今の状態で話を聞くよりも、少し落ち着いてから――そう考えた俺の意図が伝わったのか、かをるは大人しく口をつけ、静かに前を向く。

 いくつか悩んだ候補から俺が絞った場所、シーズンオフで誰もいない海に着いた時には、話ができる状態には戻っていた。

「今朝、職員室に呼び出されたんです」

 防波堤から揺れる水面を見下ろしながら、静かにかをるが話し始める。

 スカートのポケットからためらいがちに取り出したものを、そっと俺に手渡してみせた。

「何枚か見せられて、問いつめられました。最近、私に関する悪い噂を聞いたって……こういう場所に出入りして、よからぬ人々と付き合っているのではないかって、そう言うんです」

 写真に映っていたのは、私服姿のかをる。

 バックには、ホストクラブ・ムーンリバーとネオンサインが躍っている。

 隣にはアホ面で笑う駄目元、そして香織とハナコ。

 見るからに夜の世界の住人たちだとわかる派手な格好で、かをるを囲んでいた。

「もちろん、お花の配達に行ったって話したんですけど、これはたまたま頂いたジュースをこぼしちゃって、いつものエプロンを外してるところで――先生たちは、信じているとは言いながら、すごく疑ってる顔でした」

 無言で続きを促す俺に頷きつつ、かなり迷ったような沈黙をはさんだ後、かをるは口を開いた。
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