抹茶な風に誘われて。
蝉が盛んに鳴いている。
自分の命を、生きていた証を遺そうと必死で呼んでいるのだ、その短い恋の相手を。
その鳴き声を聞くたびに、心の中がむずがゆくなる。
思い出すからかもしれない。
夏が来るたび、苦い思いで見つめた夕顔。
どうせ咲いても、すぐにしぼんでしまうのに。
なぜ懸命に生きようとするんだ。
どうせ死んでしまうのに、なぜ必死で生を歌うんだ。
蝉にまで腹が立つほど、世界の全てが許せなかった。
母が死んだのに、のうのうと生きている自分も、何もかもを呪った。
幼かった頃のそんな想いを、今でも思い出すから――。
心の中の暗闇にふいに大きな音が鳴り響き、俺は顔を上げた。
歩行者用信号の音が、さあ渡れとせきたてるように鳴っている。
じわりとにじんでいた汗をハンカチで拭いて、そのまま歩行者の波に乗ろうと足を踏み出す。
「静、静! ちょっと待てってば」
それを止めたのは、信号音と同じくらい無粋な大声と、軽薄なビーチサンダルの足音。
振り向かずに歩き出したら、背後から「おっ、無視かよ、コノヤロ」とか「おーいそこ行くお兄さーん! ちょっとアンケートに答えてみませんか」とか、「待ってってばーくっそー待たなきゃお前のメルアド、その辺の女どもにばらまくぞ!」とかいう鬱陶しい声が追いかけてくる。
仕方無しに振り向くと、趣味の悪いドクロの描かれたTシャツを着た、いかにも不真面目そうな奴が追ってきていた。
自分の命を、生きていた証を遺そうと必死で呼んでいるのだ、その短い恋の相手を。
その鳴き声を聞くたびに、心の中がむずがゆくなる。
思い出すからかもしれない。
夏が来るたび、苦い思いで見つめた夕顔。
どうせ咲いても、すぐにしぼんでしまうのに。
なぜ懸命に生きようとするんだ。
どうせ死んでしまうのに、なぜ必死で生を歌うんだ。
蝉にまで腹が立つほど、世界の全てが許せなかった。
母が死んだのに、のうのうと生きている自分も、何もかもを呪った。
幼かった頃のそんな想いを、今でも思い出すから――。
心の中の暗闇にふいに大きな音が鳴り響き、俺は顔を上げた。
歩行者用信号の音が、さあ渡れとせきたてるように鳴っている。
じわりとにじんでいた汗をハンカチで拭いて、そのまま歩行者の波に乗ろうと足を踏み出す。
「静、静! ちょっと待てってば」
それを止めたのは、信号音と同じくらい無粋な大声と、軽薄なビーチサンダルの足音。
振り向かずに歩き出したら、背後から「おっ、無視かよ、コノヤロ」とか「おーいそこ行くお兄さーん! ちょっとアンケートに答えてみませんか」とか、「待ってってばーくっそー待たなきゃお前のメルアド、その辺の女どもにばらまくぞ!」とかいう鬱陶しい声が追いかけてくる。
仕方無しに振り向くと、趣味の悪いドクロの描かれたTシャツを着た、いかにも不真面目そうな奴が追ってきていた。