抹茶な風に誘われて。
「こっ、校長せ――!」

 叫びそうになった若い教師の口を、ものすごい素早さで学年主任の両手がふさぐ。

 目を白黒させながら、「きっ、君! こっ、こここ、こんなものを、どっ、どこで、いやどうやって――!?」などと泡をふきそうな顔で訊ねる。

「ああ、手段をお知りになりたいなら、また今度ゆっくりとご説明しますよ。そんなに喜んでいただけるなら、もう一枚特別にお見せしようかな」

 これこそが俺にとってのチェックメイト、と呼べるであろう写真を取り出そうとするが、「も、もう、結構――! き、君、別室でゆっくり話をしようじゃないか」と学年主任が今までの態度が嘘のような笑顔で俺を誘う。

 そこに鳴り響いた、場にそぐわぬ明るい着信メロディ。

 頼んでおいた時間ぴったりであることに内心満足している俺になど気づくわけのない学年主任が、スーツのポケットから携帯を取り出す。

「も、もしもし、ええ――あ、それがそのう、少々問題が、ですね。えっ? もういい? そっ、それはどういう――あっ、ちょっ……新田議員!」

 あわてたように呼んでしまってから、しまった、というわかりやすい顔で俺に目線を走らせる。

 出番が遅れた先ほどの写真をにっこり笑って目の前に掲げてやると、今度こそ力が抜けたように、学年主任がへなへなと床に座り込んだ。

 勝負の結果が出たところで、俺はもう片方の袂に手を入れ、思い出したようにかをるの手を取る。

「ほら、忘れ物だ。学校には付けていかない約束だったが、今回みたいな誤解が生まれたらまた先生方にご面倒をかけるからな――なんなら、全校生徒を呼び出して、全ての事情と共に俺がきっちり説明してやってもいい。ねえ? 先生」

 にやりと唇の端を上げる俺に、ぶんぶんと首を左右に振る教師たち。

 その完敗を示す白旗が見えていないらしいかをるが、きょとんとした顔で首を傾げた。
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