抹茶な風に誘われて。

Ep.14 静―約束

「トゥ、カヲル、フロム、セイ、ですってー! きゃあーきゃあー!! 本物よー本物のエンゲージリングよー! どうしましょっ、ねえ、香織!」
 
「うっわー、本当にプラチナだわ。これ、三カラットくらいあるんじゃない? しかもこのサイズにカット、絶対特注だって」

「すっげー! マジで婚約したんだ。っていうか静、本気で年貢納めるつもりなんだー! 俺、感動して鳥肌立ってるんだけど!!」

 ぎゃあぎゃあわめきまくるいつもの面々に囲まれて、自分の手に戻ってきたダイヤの指輪をぽーっとした赤い顔でかをるが見つめる。

 その瞳はまだ夢見心地で、先ほど大幅に重要事項を省いた説明をしてやった俺の話ですら、理解できていないのだろうとすぐにわかった。

「年貢だかどうかは知らないが、もう決めたことは事実だな」

 端的に答えてやると、更に歓声が沸く。

 どうでもいい奴らの反応は無視して、俺はかをるの前に点てた薄茶を置いてやった。

 落ち着くように、と勧めた俺の声も届いているのかわからないぼんやりした顔で、かをるが茶碗を取り上げた瞬間。

 玄関のチャイムが鳴って、ふざけあいながらハナコたち三人が出て行く。

 こんな夜に誰だろうかと付いて出た俺は、結構な驚きに目を見張った。

「あ、あのっ――こんばんは! はじめまして、私……河野咲っていいます。かをるの親友です!」

 長い黒髪をポニーテールにまとめた少女が、ぺこりと頭を下げる。

 かをると同じセーラー服に、そのすらりと背の高いスタイルは、どこか記憶に残ってはいたが、あえて冷ややかな瞳を装って頷いた。

「へえ――それで、何の用」

 無愛想に訊ねる俺の背後で、駄目元たちが小声であれこれ囁きあう。

 顎だけで中へ入っていろと指示をしている間に、咲と名乗った少女はもじもじと藤田葉子の名前を出し、そこで聞いたのだとかなんとか説明を始めた。
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