抹茶な風に誘われて。
 純粋すぎる天然少女のおかげというべきか、すっかり平和を取り戻した九月最後の週末。

 俺とかをるは縁側に腰掛け、夜空に浮かぶ月を眺めていた。

「浴衣、持ってるとは思わなかったな」

 呟いた俺の声で視線を合わせたかをるは、いたずらっぽい微笑を浮かべる。

 月にウサギの絵が描かれた、風流そのものの古風な浴衣は、色の白いかをるの肌を引き立たせていた。

「似合ってませんか? 葉子さんが、昔着てたものだけどって譲って下さったんです」

「ああ、もちろん似合ってるよ。まるでお前のために仕立てたものみたいだな」

 なんて囁きながら、あらわになっているうなじに唇を寄せる。

 浴衣にあわせたまとめ髪から、シャンプーの清潔な香りがして、気分は花に誘われる蜜蜂だ。

「せ、静さん……くすぐったい、です」

 少し乱れた息が色っぽくて、俺はそのまま本格的なキスに移行しようと体勢を変える。

 月見、と称して飾っていたススキと団子の皿が背中にあたって、不機嫌に瞳を開けた、その瞬間。

 垣根の間から覗く瞳とはっきり目が合って、俺はわなわなと震える拳を握り、立ち上がった。

「おい――お前ら、何をしてる」

 言い終わる前に、どさどさどさ、と重みに耐え切れなくなったらしい人影が倒れる音がして、バターン、と裏戸が開く。

 一番下に駄目元、その上には香織、そしてハナコの順番で、見事にずっこけた三人を目にして、俺は額に手をやった。
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