抹茶な風に誘われて。
「あー全く騒々しいな。なんで付いてくるんだよ、駄目元。お前、今日オフだろうが」

 いつもとは違う自然に下ろしたままの茶髪を見やって、言ってやる。

 しかし子犬のように勇んでダッシュしてきた男は、にやにやしながら俺を突付いた。

「だから亀元だってば! って、まあいいや。やっと止まったから許してやろう。それより何だよ、今の! さてはお前、さっきの子気に入ったな~?」

 何がそんなに楽しいんだか、満面の笑みで見上げてくる亀元を、俺はにこりともせずに見下ろす。

「何のことだ。さっきのって、俺は亭主と子持ちの熟女には興味はないぞ」

「出た出た、静お得意のごまかし。ポーカーフェイスの愛想なしが、ただの初対面にあれだけの挨拶はないだろ。しかも、なんか訳アリっぽいし。
あんな可愛い女子高生、どこで会ったんだよ? どういう知り合い?」

 年齢差など一つも考慮しない元後輩は、ひるむ様子もなく付いて来る。

「でもなんか怒って帰っちゃったみたいだけど、いいのかよ? 静って本当、性格悪いよなー気に入った子だと余計にひねくれた言い方するし。嫌われちゃってもいいのー? 俺、すかさずアタックしちゃうぜえ?」

「バーカ。あんな一回り以上も年下のガキ、気に入ったも何もあるか。ちょっとからかっただけだ」

 冷たく言い捨てても、亀元は全く気にすることもなく笑みを濃くした。

「あれえ~? なんか反応がマジっぽい? 意外にああいう純粋そうな、真面目そうな、守ってあげたいタイプがドストライクゾーンだったんだ? 女なんてよりどりみどりの元ナンバーワンホスト、静さん、誰にもなびかねえと思ったら、女子高生が射止めちゃうとは! いやあ、世の中何が起きるかわからないもんですねー! 謎の美形がなんとロリコンだったとはー! 号外―号外―!」

「うるさい、暑苦しい、鬱陶しい。バカ言ってないでさっさと帰れ。オフの日にデートの約束もないのか、お前は」

 まさに耳元で飛び回る蚊のごとく、耳障りなたわごとをほざく亀元の頭を押さえつける。
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