抹茶な風に誘われて。
 カリガネソウの薄紫と、コエビソウの赤がそっと寄り添っている。落ち着いた中にも可愛らしい印象を与える組み合わせ、それが今日の茶花だ。

 しゅんしゅんとお湯の沸く音だけが響く、落ち着いた和室――こうして抹茶の香り漂う空間で過ごす時も、三ヶ月を数える。

 学校帰りに寄らせてもらうことなんて珍しくないのに、なぜか今日はさっきの会話が蘇って緊張してしまって、お茶碗を持つ手が震えた。

「どうした、寒いのか?」

 低音が振ってきて、びっくりした瞬間に滑らかな灰釉茶碗を落としそうになった。

「きゃっ……」

「なんだ、顔も赤いな。風邪でも引いたか」

 大きな浅黒い手の平でお茶碗を受け止めた後、額を近づけられて。

 深いグレーの瞳が間近に見えて、思わず肩を縮めてしまった。

「熱はないみたいだが――なんだ、かをる。今更緊張してるのか?」

 後半はにやりと笑みを浮かべて訊ねられると、もう赤くなる頬を止めることもできない。

 必死で首を振っても、ドキドキする私の鼓動がまるで聞こえているかのような端正な顔は、一気に距離をつめた。

「集中できないなら、今日の点前は終わりにして……もう一つの授業にしようか?」

 囁きは、耳元にふわりと送り込まれる。

 同時に首筋に唇をつけられて、高鳴る心臓を抑えきれずに両目を固く閉じてしまった。

 それを合図のように、背中にまわされた手の力が強くなって、抱き寄せられる。

 するりと肌に気持ちのいい着物の感触が、頬に当たる。

 とくん、とくんと鳴っているのが、静さんの心臓の音だと今更気づいて、それだけ密着している状況に緊張がピークに高まった。
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