抹茶な風に誘われて。
「えー? 勘弁してくれよー。オフの日くらいは女の子から解放されねえとやってらんねえっつーの。あ、あと酒からもね、ハハハ」

「お、電話だ電話。ほら、お客じゃないのか? 愚痴こぼしてないで、さっさと営業活動に勤しめ、この万年最下位ホストが」

 へらへらと笑う亀元のポケットで、ちょうど鳴った携帯を指差して、俺はざまあみろと笑ってやった。

「あっ、くっそー逃げたな! せっかくいつもの反撃に出るチャンスだったのにっ! ってあ、もしもし、ううん、なんでもないよーミチルちゃん。えーマジ会いたいって。明日は絶対店に来てよー、いっつも来る来るって言いながら全然来てくんないじゃん。 えっ、同伴にアフターで忙しい? マジで?」

 覚えとけよ、と唇の動きと表情だけで負け惜しみを送ってきながら、亀元はあいかわらず軽い調子で営業トークを始めている。

 どこのキャバ嬢だか知らないが、あれじゃあ逆にいいように使われるのがオチだ。

 案の定ちゃっかり店に行く約束までさせられているバカを一瞥して、俺は片手をひらひらと振ってやった。

 この一条静をからかおうとした罰だ。ただでさえ少ない給料で貢いで、絞り上げられるんだな。

 俺の心の声が届いたのかどうか、振り返った先で亀元は思いっきり舌を出していた。

 そのまま少し歩みを速める。

 そうだ、あんなバカに付き合っている暇はないんだ――特に今日は。

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