抹茶な風に誘われて。
Ep.3 挑戦
ぐい、と強い力で手首を引かれて、我に返った。
気づけばもう一つの腕の中――慣れた香りと優しい体温に包まれていて、冷たい響きの低音が聞こえた。
「悪いが、こいつはお前の『ハニー』なんかじゃない。誰と間違えてるのか知らないが、人違いじゃないのか?」
見上げると、いつもは穏やかなグレーの瞳が、明らかな怒りの色を宿している。
不快だとそのまま示す厳しい目つきを受け止めて、アキラくんはおどけた調子で両手をあげてみせた。
「おお怖え。でも人違いなんかじゃないんだわ。間違いなくこいつは九条かをる、俺のハニー。いや、そうなる予定の女だ」
「あ、アキラくん……? あの、何言ってるの……?」
やんちゃでガキ大将というイメージしかなかったあのアキラくんと同一人物だとは思えない言葉に眉を寄せる。
私よりも思いっきり眉を寄せている静さんに気づいて、あわててその袂に掴まった。
「静さん、えっとこの子は施設で一緒だった田坂アキラくんで――」
「今は白井だけどな」
「そう、白井……えっ?」
繰り返してからやっと思い出した。いや、忘れてなんていなかったはずの事実を。
目を見開いた私にいたずらっぽくウインクまでして、アキラくんは片腕を下げてお辞儀してみせる。
「申し遅れました。私、白井アキラ。十七歳。現在アメリカフロリダ州在住。白井ガーデングループの社長子息、なんてのをやっております。以降、お見知りおきを……一条静さん?」
「ほう、俺の名前も調査済みか?」
「調査だなんて人聞きの悪い。自分の未来の妻の、現在の交友関係を知るのも、当然の務めだってだけですよ」
今頃あのおじさんの手紙にあった『使い』というのがアキラくんのことだったのかと閃いていた私は、二人のやりとりを聞き逃していて。
何やら不穏な空気が立ち込めているのに気づいてようやく顔を上げた。
気づけばもう一つの腕の中――慣れた香りと優しい体温に包まれていて、冷たい響きの低音が聞こえた。
「悪いが、こいつはお前の『ハニー』なんかじゃない。誰と間違えてるのか知らないが、人違いじゃないのか?」
見上げると、いつもは穏やかなグレーの瞳が、明らかな怒りの色を宿している。
不快だとそのまま示す厳しい目つきを受け止めて、アキラくんはおどけた調子で両手をあげてみせた。
「おお怖え。でも人違いなんかじゃないんだわ。間違いなくこいつは九条かをる、俺のハニー。いや、そうなる予定の女だ」
「あ、アキラくん……? あの、何言ってるの……?」
やんちゃでガキ大将というイメージしかなかったあのアキラくんと同一人物だとは思えない言葉に眉を寄せる。
私よりも思いっきり眉を寄せている静さんに気づいて、あわててその袂に掴まった。
「静さん、えっとこの子は施設で一緒だった田坂アキラくんで――」
「今は白井だけどな」
「そう、白井……えっ?」
繰り返してからやっと思い出した。いや、忘れてなんていなかったはずの事実を。
目を見開いた私にいたずらっぽくウインクまでして、アキラくんは片腕を下げてお辞儀してみせる。
「申し遅れました。私、白井アキラ。十七歳。現在アメリカフロリダ州在住。白井ガーデングループの社長子息、なんてのをやっております。以降、お見知りおきを……一条静さん?」
「ほう、俺の名前も調査済みか?」
「調査だなんて人聞きの悪い。自分の未来の妻の、現在の交友関係を知るのも、当然の務めだってだけですよ」
今頃あのおじさんの手紙にあった『使い』というのがアキラくんのことだったのかと閃いていた私は、二人のやりとりを聞き逃していて。
何やら不穏な空気が立ち込めているのに気づいてようやく顔を上げた。