抹茶な風に誘われて。
「そういうわけなんで、しばらく日本に滞在することにしたから。オヤジの話もしたいし、また会いに来るよ。ハニー」

 あくまでも軽い調子で投げキッスをよこされて、ぎょっとする私。

 怖い顔をした静さんが、さりげなく自分の背後に私を隠した。

「あ、あの――アキラくん、私……!」

「ああ、婚約のことなら知ってるよ。でも大丈夫、別に結婚してるわけでもあるまいし、破棄すりゃいいだけのことだからさ」

 じゃあな、と手を振られて、唖然としたまま後ろ姿を見送る。

 ゆっくり振り返ったら、細めたグレーの瞳が私を映していた。

「せ、静さん、私――」

「わかってる。お前のことだから何も知らなかったんだろう。どうせていよく後でも付けられて、俺の見ている前で抱きしめてみせたってとこか。あの野郎、澄ました顔で堂々とこの俺に挑戦するつもりだと?」

 独り言のようにすらすらと返されて、最後は完全に呟きと化した言葉は恐ろしく冷たく聞こえた。

 ぴくりとも動かない眉毛は、かえってどれほどの強さで感情を押さえ込んでいるのかがわかって怖くなる。

「せ、静さん……?」

 おどおどしながら、それでも呼んだら、くるりと無表情の顔が振り向いた。

 一瞬で気分を切り替えたのか、それともわざとなのかわからない微笑が見えた時には、肩を抱かれていて。

< 240 / 360 >

この作品をシェア

pagetop