抹茶な風に誘われて。
「ふうん、施設にいた時、優しくしてくれたおじさんのねえ……それであの手紙が来てから、かをるちゃん何となく落ち着かなかったのか」

 夜、お風呂上りにホットミルクを頂きながら打ち明けた私に、葉子さんが納得の表情を見せる。

「でもそのアキラくんって子、すごいチャレンジャーだわね。あの一条さんの前でわざわざ強奪宣言するなんて」

「強奪、宣言……?」

 意味がわからなくて繰り返したら、葉子さんが楽しげに笑う。

「そう。だって目の前で抱きしめてみせた挙句に、自分の『ハニー』にしてみせるって豪語したわけでしょう? それはもう立派な宣戦布告じゃない」
「あのう、『ハニー』って……?」

 さっきもよくわからなかったのだけれど、ようやく訊ねる機会を得た私は続けた。

 目をぱちくりした葉子さんが、ついに声を上げて笑い始めた。

「そうかそうか、かをるちゃんはまずそこからわかってなかったのかあ。やだあ、ほんっとに可愛いんだから! もう」

 くりくり頭を撫でられて、少しむくれる私。

 なんだか最近みんなに同じようなことを言われている気がしたから。

「そのものズバリ、恋人って意味でしょ? よく映画やなんかで外人がそう呼んでるじゃない、自分の彼女とか奥さんのこと」

 ――恋人。

 単語と共に、ようやくさっきまでのアキラくんの言動が意味を結ぶ。

「ええっ?」

「かをるちゃんったら、気づくの遅すぎよ。それで一条さんは? さぞかしご立腹だったでしょうに」

 こつん、と人差し指で額を押された私は、あの後の静さんを思い返す。
 特に思い当たることはない、けれど――。

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