抹茶な風に誘われて。
「……いえ、何も」

「嘘お、何も言ってなかったの? 怒ったりとか」

 首をぷるぷる振ると、葉子さんは納得が行かないような、それでいて何か思いついたような意味深な顔をする。

「あ、そういえば……」

「なあに?」

「いっ、いえ、何でも!」

 思いついたことをそのまま話してしまいそうになって、あわてて口をつぐんだけれど、葉子さんが許してくれるわけはなくて。

「コラ、言いかけたなら最後まで話してしまいなさいな。気になって眠れないじゃないのっ!」とはがいじめにされて、仕方なく白状するはめになった。

「ただ……いつもよりも、その……密着度が高かった、かなって」

 最後は消え入るような声で答えると、私の赤い頬が移ったかのように、葉子さんまでぽっと染まった。

「んまっ、あらやだ。そういうことね。一条さん、あれで結構ヤキモチ焼きなんだー。そりゃあそうよね。うんうん」

 一人で納得したような表情で、何か想像しているらしい葉子さん。

 ――ヤキモチ? 本当に?

 全く普段と変わらないように見えた静さんが、まさか、と打ち消しかけて、それにしては時々眉間に皺を寄せて何か考え込んでいたふうだったのを思い出す。

 映画館に着くまでの間に、ちゃんとおじさんの手紙のことも、施設での事情も話しておいた。

 でもその時にはただ頷いていただけだったのだ。

 いつも何も態度に出さない静さんだから、本当はどう思っていたのかわからなかった。

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