抹茶な風に誘われて。
 ――ヤキモチ、焼いてくれていたのかな。

 そうだったら、少し嬉しい、なんて思ってしまった自分を反省して、自室に戻った。

 いつも通り水色のノートを取り出して、今日の欄――静さんとデート、と書かれたスペース――に、映画、と付け加えて題名も書き込む。

 少し考えてから、アキラくんと再会したことだけを付け足すことにした。

 田坂、と書きかけてから、白井、と今の姓を書いたことで、またあの手紙が目についた。

 連絡先も何も聞いてこなかったけれど、この住所は知っているだろうから、どのみちアキラくんとはもう一度会って話さなくてはならない。

 静さんの気持ちを考えると、少しだけ胸が重くなる。

「そっか、静さんと一緒に会えばいいんだ」

 思いついた考えは我ながら良案で、決めてしまえば気分は軽くなった。

 すっきりした心でベッドに入った私は、一つ大事なことを忘れていることに気づいていなかった。



 *


 翌週、早速返された中間テストの答案を片手に、それぞれ明暗が分かれた顔をしたクラスメイトたち。

 机につっぷしてどんよりしている優月ちゃんを、咲ちゃんがなぐさめていた休み時間。

 急にがやがやし始めた廊下の向こうから、「ちょっと、転校生だって!」と騒ぐ声が聞こえた。

「え、転校生?」

「こんな季節外れに?」

 答案用紙のことなど忘れたような興味津々の瞳で、みんなが顔を見合わせる。

「どうせ女でしょ」と顔も上げずに呟いた優月ちゃんは、きゃあっと上がった黄色い悲鳴に飛び起きた。

「えっ? 男? マジで!?」

 あっという間に軽やかに立ち上がって、廊下へ出る優月ちゃん。

 女子高だった頃の名残で、全校生徒の割合で男子生徒はわずか一割。うちのクラスは女子ばかりだったから、男子生徒が入ってくるとしたらちょっとした騒ぎなのだ。

「ふうん、こんな中途半端な時期に珍しいね」

 興味なさげに咲ちゃんが振り向いて、私も頷いた。
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