抹茶な風に誘われて。
 どんな子が来るのか知りたくないわけじゃないけど、それよりも私にとって重要なのは、目の前の答案用紙のほう。

 静さんに教えてもらったりしていたおかげか、英語が今までで一番よかったから、早速報告しなきゃ――なんて喜んでくれる顔をひそかに思い描いたりしてた。

 だから、休み時間終了のチャイムが鳴って、先生が扉を開けた時にも、答案用紙の八十五点、という赤い文字だけを見ていたのだった。

「突然ですが、うちのクラスに新しい仲間が加わることになりました」と担任の美作先生が咳払いの後に告げた瞬間、ざわざわと教室中が騒がしくなる。

 拍手したりする子もいて、斜め前の優月ちゃんがきらきらした顔をしていたから、それでようやく前を向いた。

「……え?」

 一人呟いた私の声は、歓声にすぐかき消されて。

 目が合った先でいたずらっぽい瞳がきらめいて、そばかすの浮いた頬が笑みを刻む。

「どうも、白井アキラっす。今日から一ヶ月間だけですが、交換留学生として受け入れてもらいましたんで、よろしくー。えっと、昨日フロリダから着いたばっかなんで、まだ絶賛時差ボケ中。日本は五年ぶりくらいなんで、なんかとぼけたこと言っても笑って許してやってください」

 軽い調子の自己紹介に、周囲からくすくすと笑い声がもれる。

 けれど、私は笑うことなんて到底できなくて、見開いたままの瞳で制服姿のアキラくんを見つめていた。

「えーじゃあ、白井くんの席は今空いてる一番後ろってことで。さあ、皆さん授業を……」

 言いかけた美作先生の声に、みんなのブーイングが被さる。「質問タイムにしてよー先生!」という誰かの声で、先生は仕方なさそうに教壇から降りた。

「少しだけだぞ?」と不満げに答えた先生の言葉に歓声が沸き起こり、真っ先に優月ちゃんが手を挙げた。

< 245 / 360 >

この作品をシェア

pagetop