抹茶な風に誘われて。

Ep.4 誘惑

「もーっ! なんでいっつもかをるちゃんばっかしモテモテなのおっ? 世の中不公平っ! 不公平すぎるってばーっ!」

 畳の床をばしばし叩きながら悔しそうに叫ばれて、私はなんとも言えなくて俯いていた。

 さっきからもう何度目かわからないくらいに「なんで」を連発している優月ちゃんにため息をついて、それでもその背をさすってあげるのは咲ちゃんだ。

「はいはい。わかったわかった。悔しいのはわかるけど、そんなに興奮しないの。かをるちゃんが困ってるじゃない。ねっ?」

 遠慮気味になだめる言葉に同意するのは、野太い声。

「そうよお、興奮したらお肌に悪いんだから。ほら、お茶でも飲んで」といつの間にか点てたらしい薄茶を差し出しているのは昼はサラリーマン、夜はオカマバー勤務のハナコさんだった。

「世の中ってのは不公平にできてるもんなの。その中をどんだけたくましく生きてくかが人生のコツよ?」

 紫煙を庭に向かって吐き出しながら、ホステスの香織さんがクールに言い聞かせる声を耳にしても、まだ優月ちゃんは唇をとがらせたまま。

 それでも一緒に進められた和菓子は口に運んでいた。

「そうそう。大体さー外も中も可愛いかをるちゃんと、腹の中真っ黒な自分を比べる時点で間違ってんだって。お前みたいな殺しても死なないシブトイ系は、もっと中身を磨くことから始めるべきだろ。ねーっ、かをるちゃん?」

「か、亀元さん……っ!」

「なんですってー!? あんたなんかに言われたくないっつーの! そもそも万年最下位の価値ゼロなホストになんて発言権なし!」

「ゆ、優月ちゃんっ」

「あんだとー? 頭ん中カラッポな甘ったれ女子高生に言われたくないってんだよっ!」

「なんであたしが甘ったれなのよっ! それに少なくともあんたよりは頭いいと思うけどー?」

 にらみ合う二人の間に入って、おろおろする私。
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