抹茶な風に誘われて。
「だめだよ、かをるちゃんは残っとかないと。二人で話すこととかあるでしょ? 例の転校生のことで」

「そうそう、不機嫌な理由なんてあきらかじゃん。わざとヤキモチ焼かせたいんなら何も言わないけど、そうじゃないんなら、ちゃんと安心させたげなよお?」

 肩に手をかけたのは優月ちゃんで、自分も不機嫌だったことなんてすっかり忘れたかのように笑う。

「こんなに可愛いあたしをほっとくなんて、男たちも見る目ないよねー。まっ、いいや。そのうちもっとすんごいイケメン捕まえてみんなをびっくりさせることにするわ。じゃねっ、かをるちゃん!」

 切り替えの早い長所を存分に発揮した笑顔で手を振られて、気づけば賑やかだった茶室はあっという間に静かになっていた。

 さっき香織さんがタバコを吸うために少し開けていた障子の隙間から、肌寒い夜の風が吹き込んでくる。

 軽く息をついて障子を閉め、散乱していたお菓子の袋やらお茶碗やらをお盆に載せて、台所へ運んだ。

 片づけを終えて戻ってる途中で、反対側の和室に目をやる。

 そこは静さんが仕事場として使っている書斎で、畳に不似合いな最新のパソコンやプリンターなどが置かれている。

 さっきそこへ入っていったはずの静さんはいなくて、一瞬辺りを見回した私は、突然背後に立っていた人影に気づいた。

「きゃっ……せ、静さん? びっくりした、お仕事してらしたんじゃないんですか?」

 まだ電気をつけていなかった廊下は薄暗くて、悲鳴を上げそうになったことがなんだか悪いような気持ちで、訊ねる。

 笑いかけても、なぜかグレーの瞳は静かに私を映しているだけで、その中に潜む感情が何なのか全く読めなかった。

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