抹茶な風に誘われて。
「あ、あの――えっと、アキラくんのこと、驚きましたよね。ただ遊びに来たのかと思ってたら、まさか一ヶ月私のクラスに来るなんて――」

「そうだな」

「あの……で、でも席も離れてるし、帰り道も別々だし、その……私は」

「わかってる」

「そ、そうですよね。静さんなら、ちゃんとわかってくれてるって思ってました……」

 何を言おうとしたのかわからなくなるほど、静さんの返事は簡潔で、表情にも変化はない。

 だから心配しないでくださいね、とか、何も気にする必要はないんですよ、とか、そんなことを言うほうがおかしいような気がして、口をつぐんだ。

 そうだ、静さんは大人だから、私のことちゃんと信じてくれてる。

 余計な心配なんて、きっとしていないはず――そう思うのに、なぜか沈黙と、佇んだままの静さんに怯えてしまう。

「静、さん……?」

 呼んでしまった声に、不安がにじみ出ていたのだろう。

 一瞬だけ表情を緩めた静さんが私に歩み寄り、そっと頬に手を当てた。

「俺なら、か」

 ふっと口元だけで笑って、呟く。

 その言葉の意味がわからなくて見上げたら、なぜかグレーの瞳が切なげに細められていた。

「お前の中に、俺はどんな風に映ってる?」

 突然の問いに、瞬きする。

 口を開けたけれど、何と答えたらいいのかわからなかった。

 少し開いたままで止まっていた唇に、そっと静さんの唇が触れる。

 身長差があるから、自然といつも静さんが身をかがめてくれる形になって――背中を引き寄せる腕に無意識のまま身をゆだねたら、そのまま廊下に押し倒された。
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