抹茶な風に誘われて。
「静さん、あの――」

 予想外の行動に戸惑う私を見下ろして、言葉の続きをキスで封じた静さんの指が、広がった髪をからめとる。

 キスの動きに合わせるように、静かに髪の感触を確かめている。

 優しかった指に少しずつ力がこもって、段々口付けも熱っぽくなっていく。

「んっ……せ、い」

 名前さえも呼ぶのを許さないかのような激しさで、深く深く口付けられて息が上がりそうになる。

 それでも止まらない唇は、ゆっくりと位置を変え、胸元にまでおりてきた。

 激しさに付いていけないでいる心よりも先に、体がどんどん熱を持って――何がなんだかわからない間に喘いでいた。

 突然何の前触れもなくスカートに入り込んだ手に、さすがにびくりと震える。

「せ……っ」

 呼びかけた名前は、喉の奥でひくついて止まってしまう。

 目が合った静さんは、今まで見たことないくらいに真剣な瞳をしていたから――。

「好きだ、かをる」

 囁かれた言葉に、目を見開く。

 いつも冗談めかして、余裕を崩さない静さんがこんな風に口にするなんて、初めてだったのだ。

 硬い廊下にあたる背中が痛いことも、心臓がすごい速さで脈打っていることも、息苦しいくらいに緊張していることも、その瞬間に全て真っ白になった。

 麻酔にかかってしまったみたいに、全身が動かせない。ただ何度も名前を呼ぶ静さんの声だけが聞こえて、がんがんと耳鳴りがした。

 何をされてるのかもわからなかった体の感覚を蘇らせたのは、初めて味わう痛みだった。

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