抹茶な風に誘われて。
 携帯を眺めて、ため息をつく回数が増えた私に気づいて、咲ちゃんたちがあれこれ心配してくれたけど、もちろん原因を言うことなんてできずにいた。

 それでも私を放っておいてくれない唯一の存在、今の頭痛の種ともなりつつあるクラスメイトが今日もあれやこれやと話しかけてくる。

「なあ、なんでデートしてくれないわけ? いいだろ、別にさあ」

「だから、おじさんの話なら今ここでしてもいいでしょ? アキラくん」

「だーかーらー、それだけじゃないんだってば。ゆっくり二人で話せる場所と時間がほしいって言ってるんだけど。昔馴染みなのに冷たすぎねえか?」

 過去を持ち出されると弱いから、思わず振り返ってしまう。

 途端に嬉しそうな笑顔が返ってきて、何かを手に駆け戻ってくる。

「おっし、じゃあどこ行こっかなー。やっぱ渋谷で買い物? 俺、ベタにハチ公前とか109とか行ってみたいんだよねー。あと原宿だろ、表参道、青山。それに、渋く浅草ってのも捨てがたい……あれっ? かをる、どこ行くんだよー」

 東京見物、と書かれた旅行社のパンフレットを差し出してくるアキラくんを素通りして、廊下を歩き始める。

 これでも結構強気に出ているつもりなのに、まったく気にする様子もなくアキラくんは追ってきた。

「誰も二人でどこかに出かけるなんて言ってないから。話なら学校でして、お願いだから……!」

 これ以上私を困らせないで、と心の中で呟いた気持ちはさすがに言葉にできなかった。

 けれど今までにやにや笑っていたアキラくんが、なぜか真顔になったのだ。

「お願いだから、静さんと私の邪魔はしないで――って言いたいの?」

「そ、そういう意味じゃ……」

 本当はその通りだったけど、目線を逸らす。

 こんな時に限って咲ちゃんは部活の昼練、優月ちゃんは体調不良で欠席、なんて頼る人もいない。

 結局転入してきてからずっとこんな調子で、本当に話したいことは何も話せずに避け続けているのだ。

 こういう誘いさえなければ昔馴染みに会えて嬉しくないはずないのに、懐かしいおじさんの話だって聞きたいのに――とつい目の前のいたずらっぽい瞳をうらめしい気持ちで睨んだ。
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