抹茶な風に誘われて。

Ep.5 デート

 ――どうしよう。

 やっぱり帰ろうか、とさっきから何度も繰り返した迷いに背中を押される。

 けれどその度に蘇る交換条件。予想もしなかった言葉。

 決められないでいるうちに、待ち合わせ時間の午前十一時が来てしまった。

「かをる!」

 嬉しそうに呼んだ声に振り向くと、私服姿のアキラくん。

 再会した時と似たような、古着のジーンズとトレーナーはすんなり日曜の渋谷に溶け込んでいる。

「わーっ、これがハチ公かー! 思ったよりちっせえんだなー。でも生で見れてなんか感動かも」

 自然に笑いかけてこられると、渋い顔もできなくて――結局相槌を打ってしまう。

 自己嫌悪に陥りかけていた私の肩に、アキラくんが手を置いた。

「静さんに知られたらどうしよう――なんて考えてんの?」

 いきなり図星をつかれて、ただ見開いた瞳を向ける私。

 やっぱりな、と呟いたアキラくんが悪びれずに笑みを返した。

「いいじゃん、何も本気でデートするわけじゃなし。ただ五年ぶりに再会した昔馴染みと一日遊ぶだけだろ?」

「本気で……じゃなかったの?」

 あっけにとられて聞き返すと、にんまり笑顔が頷く。

「そ。あっ、お前本気にしてたんだ。ただのジョークだよ、ジョーク」

「ジョーク……」

 呟いた声には自分でも明らかにほっとした色があったのか、アキラくんは少し恨めしそうな目をしてくる。

「久々に再会したら、かをる結構可愛くなってたからさー。ふざけてみただけ。今日のは本当にただの『友達』としての誘いだよ。オヤジからの伝言もあるし、一日東京見物付き合ってくれよ。それともそれぐらいのことでもお前の大人な『静さん』は目剥いて怒るってのか?」
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