抹茶な風に誘われて。
 そういえば、どうしてアキラくんは前もって知らせてくれなかったんだろう。

 冗談だとはいえ、あの時静さんに挑発的な態度を取ったりして――。

 そこまで考えた時、目が合ったアキラくんがどこか剣呑な顔つきをしていたように見えて戸惑ってしまう。

 すぐに笑顔に戻ったから、何か訊ねるのもためらわれた。

「手紙に書いてた通り、オヤジの仕事も落ち着いたしさ。前から気になってたかをるに連絡が取りたいって……ぜひ一度うちに招待したいってうるさいんだ。俺も一回日本の高校ってやつも体験してみたかったから、留学の話を出したらオヤジ、大喜びで早速手続きしてくれて今に至る、ってわけ。オヤジも俺もサプライズが好きだから、前もって詳しく言わなかっただけだよ」

「そ、そう……」

「オヤジ、お前のことだけは忘れられないって口癖のように言ってたんだぜ? 頼むから一回顔見せてやってくれよ」

「顔をって――本当にアメリカへ? む、無理だよ……そんなお金ないもの」

「そんなの俺たちが出すに決まってるだろ? 何も心配することないよ。航空券だってパスポートだって手続きしてやるからさ。俺の留学期間が終わったら、一緒に行こうぜ。一週間くらい休んで」

 どんどん畳み掛けられて、言葉を失う。

 そうだ、あの時手紙に招待するって書いてあったのに。

 手紙をもらったことへの動揺と、その後の嬉しさだけで忘れてしまっていたのだ。

 今日のアキラくんの誘いは、この話をするためでもあったんだ――。

「で、でも……アルバイトだってあるし」

「バイトなんて一週間くらいなんとかなるだろ? 何なら、俺が直接店の人に話つけてやるよ」

「でも――」

 どうしても頭から消えないのは、深いグレーの瞳。

 着物の後ろ姿。お茶を点てる流麗な仕草。それから、暖かい腕の感触。

 あの時感じた恐怖も戸惑いも、わだかまりも――何もかも忘れて、あの腕の中に包まれたい。

 今すぐ、静さんに会いたい。

 だから、私は――。
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