抹茶な風に誘われて。
『あの小猿、父親のツテで興信所を使って調べたらしいわ。静ちゃん、あなたの過去。主に付き合ってきた女たちの情報を写真付きでね』

 車中でハナコに聞いた内容を思い起こす。それだけでも分厚い写真をばらまく、小賢しい猿の笑顔が見えるような気がした。

 どうせもっともらしく嘯(うそぶ)いて、かをるを俺から遠ざけようとしたんだろう。

 傷ついたかをるを想うと、後悔に胸が痛むのも当然の感情か。

 だが、それが今まで生きてきた軌跡――そのままの自分なのだから仕方がない。

 受け入れてもらおうなどと都合のいい期待も持っていないが、誤解だけは消したかった。

 袂に手を差し込んで、メモを取り出す。

 ハナコから聞いた、もう一つの情報が記されたものだった。

 山深く、ひっそりと佇む寺の名前。それこそが、かをるの両親が眠る場所だという。

 施設にも誰にも知らせずに、息を引き取った二人が選んだのは生まれ故郷。

 共に事情があって親兄弟もいなかった。頼る親戚もいなかった。

 生まれた子供を必死で育てようとして、容赦のない現実にあきらめざるを得なかった二人は、子供を施設へ預け、そして――。

 そこから先は、想像するにたやすい、悲劇的な結末。

 近くの寺で引き取られた遺体は、和尚の好意できちんと弔われ、埋葬された。

 おそらくは施設でも何か感づいていたのだろう。

 だからこそ、かをるにも両親の死を語ることはしなかった。半ば、彼女にも予想はついていたことかもしれないが――。

 裏社会で借金を苦に逃げたような連中を捜す、その手のプロに頼んだ結果の報告だ。

 ずっとかをるが知りたがっていただろう両親の歴史を、いともあっけなく現実に記した。

 
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