抹茶な風に誘われて。
帰り道、駅に着いた頃はもう八時半を過ぎていた。
いつもならまっすぐに大通りを歩くところだが、ちょうど近くでライブがあったようで、若者がごった返した道を歩くのが面倒だった。
たったそれだけの理由で、俺は回り道をすることにした。
そんな偶然がなければ、きっと俺は忘れていただろう――あの面白い少女のことなど。
賑やかな大通りから一歩外れた道は、あの和菓子屋に行く時ぐらいにしか通らない道だった。
昔ながらの商店街に、いくつかまだ明かりのついた店舗が残っている。
千手堂は当然ながらもう閉まっていて、そこから先はまだ歩いたことのない場所だった。
夜の仕事をやめて、ここに越してきてきてからもう二年も経つというのにまだ一度も、だ。
気になり始めると、なんとなくそこを通ってみたくなるもので、俺はなんとはなしに商店街の外れへと歩き出した。
そして見つけたのだ、『フラワー藤田』の看板を。
こんな外れに花屋があったなんて、全然知らなかった。もちろん、あんな少女がいたことも。
二度目は偶然、じゃあ、三度目ならどんな顔をするだろうか――。
好奇心も手伝って、俺はその店の前で足を止めた。
二階建ての小さな店舗――おそらく二階は自宅で、一階が店舗であるようだった。
いつも使う駅前の大きな花屋とは違って、こじんまりとした店内がガラス越しに見渡せた。
口ひげをはやした、恰幅のいい店主らしき男と笑って話をしているのは、茶色に染めたショートヘアーが活発な印象の中年女性。
おそらく夫婦であるのだろう、どこかあたたかな雰囲気が似通った二人。
それ以外には誰もいない店内を見て、なんとはなしにがっかりした。
いつもならまっすぐに大通りを歩くところだが、ちょうど近くでライブがあったようで、若者がごった返した道を歩くのが面倒だった。
たったそれだけの理由で、俺は回り道をすることにした。
そんな偶然がなければ、きっと俺は忘れていただろう――あの面白い少女のことなど。
賑やかな大通りから一歩外れた道は、あの和菓子屋に行く時ぐらいにしか通らない道だった。
昔ながらの商店街に、いくつかまだ明かりのついた店舗が残っている。
千手堂は当然ながらもう閉まっていて、そこから先はまだ歩いたことのない場所だった。
夜の仕事をやめて、ここに越してきてきてからもう二年も経つというのにまだ一度も、だ。
気になり始めると、なんとなくそこを通ってみたくなるもので、俺はなんとはなしに商店街の外れへと歩き出した。
そして見つけたのだ、『フラワー藤田』の看板を。
こんな外れに花屋があったなんて、全然知らなかった。もちろん、あんな少女がいたことも。
二度目は偶然、じゃあ、三度目ならどんな顔をするだろうか――。
好奇心も手伝って、俺はその店の前で足を止めた。
二階建ての小さな店舗――おそらく二階は自宅で、一階が店舗であるようだった。
いつも使う駅前の大きな花屋とは違って、こじんまりとした店内がガラス越しに見渡せた。
口ひげをはやした、恰幅のいい店主らしき男と笑って話をしているのは、茶色に染めたショートヘアーが活発な印象の中年女性。
おそらく夫婦であるのだろう、どこかあたたかな雰囲気が似通った二人。
それ以外には誰もいない店内を見て、なんとはなしにがっかりした。